東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ダークレッドの表紙に水に浸かっている人たちの絵

書籍名

ホルモン全史 魅惑の生体物質をめぐる光と影

著者名

R. H. エプスタイン (著)、 坪井 貴司 (訳)

判型など

350ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2022年8月25日

ISBN コード

9784759820836

出版社

化学同人

出版社URL

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ホルモン全史

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私たちの身体を操る根源的な力、それは極微量の物質「ホルモン」です。この物質が、私たちの成長、感情、性差、睡眠、そして食欲といった、あらゆる生命現象を緻密にコントロールしています。
 
本書は、医師でライターのランディ・ハッター・エプスタインによる『Aroused: The History of Hormones and How They Control Just About Everything』の全訳です。
 
体内で作用するホルモンは、下垂体、甲状腺、副腎、生殖腺といった主要な内分泌器官だけでなく、胃や腎臓、脂肪組織など、全身のさまざまな場所から生み出されており、その種類は100種以上にも及びます。これらの物質が体内で作用する量は、想像を絶するほど微量です。たとえば、50メートルの競泳プールの水に、ピコグラム単位のわずかな量が溶けているだけで、生命維持に不可欠な巨大な作用を発揮するホルモンもあります。この驚くほど低い濃度で、血圧、赤血球の生成、体脂肪、食欲のバランスを整え、生命活動をコントロールしているのです。
 
この生体システムが驚異的なのは、ホルモン濃度が「狭い範囲」内で常に厳密に保たれている点です。多すぎても少なすぎても身体に変調をきたし、糖尿病をはじめとするさまざまな内分泌疾患を引き起こします。血糖値を下げるインスリンの分泌異常が、この微妙な調和を崩す典型例です。ホルモンは、私たちの身体を安定して動かし続けるための、高性能な自動調整システムです。
 
本書の真髄は、ホルモンという概念の発見にまつわる衝撃的な人間ドラマを掘り下げている点にあります。消化管からのホルモン分泌の発見が研究者の間で激しい論争と社会的な騒動を引き起こした顛末。気難しい脳外科医が集めた脳の標本から、下垂体の機能が解明されるまでのスリリングな経緯。自分の息子の成長を願い、遺体から成長ホルモンを分離しようと奮闘した研究者の執念。不妊治療の基礎を築いた生殖内分泌学の夫婦とトランスジェンダー医療の意外な接点。本書はこうしたエピソードを通じ、科学の進歩を支えた人々の欲望と葛藤を描き出します。
 
著者の機知に富んだ筆致で、ホルモンの基本原理から最新の知見までが語られます。専門書よりもはるかに分かりやすく、予備知識がなくても引き込まれるエピソードが満載です。読み終えた時、自分の身体への見方が静かに変わっている——そんな一冊です。
 
ぜひ本書で、生命の根幹を支えるホルモンの驚くべき世界を発見してください。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 坪井 貴司 / 2025)

本の目次

0章 序章
1章 太った花嫁
2章 ホルモン誕生
3章 脳のビン詰め
4章 殺人鬼ホルモン
5章 男らしくなる秘密の方法!?
6章 ホルモンで永遠に結ばれたふたり
7章 ジェンダーを作り出す
8章 成長させるために
9章 測ることのできないものを測る
10章 強くなり続ける痛み
11章 頭がかっかする:更年期の謎
12章 テストステロン研究の創始者
13章 オキシトシン これぞ愛の感覚
14章 性転換
15章  飽くなき欲求:視床下部と肥満
16章 エピローグ
17章 謝辞
18章 注釈

関連情報

原著:
Randi Hutter Epstein 『Aroused: The History of Hormones and How They Control Just About Everything』 (W.W. Norton & Company 2019年6月18日刊)
https://wwnorton.com/books/9780393239607
 
自著紹介:
「魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史」 (『比較内分泌学』48巻176号p.1-2 2023年12月1日)
https://doi.org/10.5983/nl2008jsce.48.176_1_36
 
書評:
辻田 浩志 評 (ATACK NET 2023年5月2日)
https://www.atacknet.co.jp/bookreview/bookreview.php?id=2032
 
押し売り書店仲野堂: 仲野徹 (大阪大学名誉教授) 評「魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史」 (『ドクターズマガジン』 2022年12月号)
https://connect.doctor-agent.com/article/column442/
 
京都大学生協綴葉編集委員会 評「ホルモン全史」 (京都大学生協『綴葉』No.412, p.10 2022年11月14日)
https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/images/teiyo-412.pdf
 
佐藤健太郎 (サイエンスライター) 評「人々の欲望を刺激し、社会を揺り動かす物質群 人間を人間ならしめている「ホルモン」の歴史」 (『東洋経済』オンライン 2022年11月12日)
https://toyokeizai.net/articles/-/631967
 
山元大輔 (東北大学名誉教授) 評「科学と医療の「光」と「影」 (『公明新聞』 2022年11月21日)
https://www.komei.or.jp/
 
矢澤隆志 評 「魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史」 (日本動物学会 2022年10月25日)
https://www.zoology.or.jp/archives/news/book_review_221025
 
『魅惑の生体物質をめぐる光と影 ホルモン全史』 (『産経新聞』 2022年9月11日)
https://www.sankei.com/article/20220911-CT5XV5KTE5KR7NX3JJE3ZSRMXA/

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